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法律相談Q&A

相続・遺言について

Q1. 誰が相続人になれるのか、教えてください。

A1.

相続人になれるのは、死亡した方の配偶者(夫又は妻)、子供、直系尊属(父母・祖父祖母)、兄弟姉妹です。これらの方のことを法律用語では「法定相続人」と言います。

死亡した方の配偶者は常に法定相続人になりますが、それ以外の方は以下の順番で法定相続人になります。

第1順位 子供

第2順位 直系尊属

※親等の異なる者の間では、その近い者が優先します。

例:母と祖母が健在で、父と祖父が死亡している場合は母のみが法定相続人になります。

第3順位 兄弟姉妹

第1順位の子供がいないときは第2順位の直系尊属が法定相続人になり、第1順位の子供と第2順位の直系尊属がいないときは第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になります。

Q2. 孫や甥・姪は相続人になれますか?

A2.

被相続人より先に法定相続人が亡くなっている場合に、亡くなった法定相続人の直系卑属(子や孫、甥等の下の世代のことです)はその法定相続人の相続権を受け継ぐことができます。これを「代襲相続」といいます。

それではどの世代まで代襲相続が続いていくのでしょうか。

第1順位の子供が先に亡くなっている場合は【孫】、孫が亡くなっている場合は【ひ孫】、ひ孫が亡くなっている場合は【ひ孫の子】、ひ孫の子が亡くなっている場合は・・・と、どこまでも相続権は受け継がれていきます。

それとは対照的に第3順位の兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、相続権を受け継ぐことができるのは兄弟姉妹の子(甥・姪)だけである事に注意が必要です。

甥や姪が亡くなっている場合、甥姪の子は相続人にはなれません。

Q3. 内縁の妻は相続人になれますか?

A3.

現在の法律では、事実婚関係の配偶者に相続権は認められていません。

もし事実婚関係(内縁の妻・夫)に遺産を遺されたいのでしたら、遺言や生前贈与等の対策をお勧め致します。

Q4. 胎児は相続人になれますか?

A4.

原則としてまだお母さんのお腹にいる中にいる子は、財産をもらう等の法律行為をすることができないのですが、いくつか例外があります。そのうちの1つが相続です。

民法は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」と定めています。ただし、生きた状態で生まれてくることが条件です。死産となった場合には、相続人とはなれず、相続権も認められません。

よって胎児が無事に生まれてくるか死産であるかによって、法定相続人が誰であるかと、法定相続分が変わってくることになります。

Q5. 法律で相続分が決められていると聞きましたので、詳しく教えてください。

A5.

法律で決められた相続分のことを「法定相続分」と言い、下記のとおりとなります。

相続人 法定相続分
配偶者と子供 配偶者2分の1 子供2分の1
配偶者と直系尊属 配偶者3分の2 直系尊属3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1

子供、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は上記の相続分をその人数で割ったものが各人の法定相続分となります。

Q6. 結婚している男女の間に生まれた子と、そうでない子の相続分に違いはありますか?

A6.

結婚している男女の間に生まれた子の事を嫡出子、結婚していない男女の間に生まれた子の事を、非嫡出子といいます。

被相続人である父親が非嫡出子を認知している場合は、非嫡出子にも相続権が発生します。

そして被相続人ある父親に嫡出子と非嫡出子がいた場合の相続分ですが、以前は非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1とする規定がありましたが、

平成25年に改正され、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等となりました。

※この改正が適用されるのは平成25年9月5日以後に開始した相続についてです。また、平成13年7月1日~平成25年9月4日までに開始した相続については、すでに遺産分割が終了しているなど確定的なものとなった法律関係を除いては、嫡出子と非嫡出子の相続分が同等のものとして扱われます。

Q7. 片方の親が違う兄弟がいる場合の相続分について教えてください。

A7.

法律の世界では、父母の双方を同じくする兄弟姉妹のことを全血(ゼンケツ)兄弟姉妹、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹を半血(ハンケツ)兄弟姉妹という言い方をします。 

相続人に全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹がいる場合、半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の相続分の2分の1です。

Q8. 相続人が相続権を失ってしまうことがあるのでしょうか?

A8.

以下に当てはまる人は相続人とはなれません。

①わざと被相続人や自分より順位が上の相続人、同じ順位の相続人(※相続人の順位については、Q1を確認してください)を死亡させ、又は死亡させようとして刑に処せられた者

②被相続人が殺害されたことを知っていたのに、告発又は告訴しなかった者。
※是非の弁別ができない人(幼い子供や認知症等で判断能力が低下している人等)や、殺害者が自分の配偶者もしくは直系血族(親、子供、孫等)であったときは例外になります。

③詐欺又は強迫によって被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨害した者

④詐欺又は強迫によって被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

以上を相続欠格事由といいます。

これに一つでも当てはまれば、その人は相続権を失ってしまいます。

ただし、相続欠格事由に当てはまる人に子供がいた場合、その子供が代襲相続人として相続権を取得することとなります(※代襲相続についてはQ2を確認してください)。

Q9. 私は息子から虐待を受けていましたので、絶対に息子に遺産を渡したくありません。何か方法はありますか?

A9.

相続人を相続から除外する方法の一つに、遺言を残す、というものがあります。

ただし、遺言では遺留分を主張される可能性があります

(※遺留分についてはQ22を確認してください)。

そこで民法では、相続人の廃除という制度を設けています。

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき人のことです)が以下のことをした場合に、推定相続人を相続から廃除する(除外する)ことを家庭裁判所に請求することができます。

①被相続人に対して虐待をした

②被相続人に対して重大な侮辱を加えた

③推定相続人に著しい非行があった

家庭裁判所から廃除が認められれば、その推定相続人は遺留分を含め相続権を失います(ただし、廃除をされた推定相続人に子供がいた場合に、その子供は代襲相続人として相続権を取得することになります)。

この廃除の申立ては生前に行うことができるのはもちろん、遺言によって行うこともできます。遺言によって行う場合、実際の申立は、遺言執行者が家庭裁判所に対して行っていくことになります。

廃除がされた場合でも、さらに家庭裁判所への申立によって、廃除を取り消すこともできます。

Q10. 父は生前、地方に不動産を持っていると話していましたが、正確な場所が分かりません。

A10.

まずはご自宅や貸金庫等に登記済権利証(もしくは登記識別情報通知)がないかどうか探してみてください。

また年に1回、固定資産税の納税通知書が役場から届いている可能性があります。納税通知書の中の課税明細書には、課税対象である不動産の所在地番が記載されています。

もし所在場所の市区町村が分かっているのであれば、市区町村役場に名寄帳を請求するのも有効な手段です。名寄帳を取得すると、その市区町村内で所有している不動産の一覧を確認することができます。

上記のうち、固定資産税納税通知書(自治体によっては名寄帳も)には固定資産税が課税されている不動産しか記載されておらず、課税されていない不動産(私道等)については確認することができません。

こうした非課税の不動産を探す方法としては、地図(公図)を取得し、被相続人の所有物件に近接している土地の登記情報(登記簿謄本)を取得する等があります。

Q11. 預貯金は遺産分割協議の前でも、払戻しができるのですか?

A11.

これまでは原則として、遺産分割協議が終了するまでの間、相続人のうちの一人が単独で預貯金の払戻しを受けることはできないケースが殆どでした。しかしそうなると、被相続人の葬儀代や、被相続人が負っていた借金の返済、被相続人から扶養されて生活していた家族の生活費等、すぐに必要な出費の支払について支障が出てしまいます。そこで、平成30年の民法改正(令和元年7月より施行)で、一定要件のもと、相続人が単独で遺産分割協議前の払戻を可能とする制度が新設されました。

詳細はQ12をご覧ください。

Q12. 改正民法で新しく設けられた、預貯金の払戻制度について教えてください。

A12.

平成30年の改正では、遺産分割協議前に相続人が単独で行う預貯金の払戻しについて、2つの制度を用意しています。

制度1)家庭裁判所の判断を経ずにできる払戻し(民法第909条の2)

各相続人は、預貯金債権のうち、口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に以下の計算式で求められる額については、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関から単独で払戻しを受けることができます。

単独で払戻ができる額

相続開始時の預金額

×

1/3

×

払戻しを行う相続人の法定相続分

ただし同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に預貯金がある場合はその全支店)からの払戻しは150万円が上限になります。

制度2)家庭裁判所の判断によりできる払戻し(家事事件手続法第200条3項)

制度1による方法ですと、払戻しの上限は1金融機関につき150万円です。その額を超えて資金が必要な場合、家庭裁判所に対し申立てをし、裁判所がそれを認めることで、150万円を超える払戻をすることが可能となります。この制度を「預貯金債権の仮分割の仮処分」といいます。

ただし、この制度を利用するためには、以下の2つの要件が必要となります。

①家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申し立てられている

②生活費の支弁等の事情により預貯金の仮払いの必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害しない

Q13. 被相続人に債務があったかどうか、どうやって調べればよいのですか?

A13.

信用情報機関から、被相続人の信用情報を取り寄せましょう。

株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、全国銀行個人信用情報センター(KSC)と、それぞれ消費者金融、クレジット、銀行借入の契約内容を確認することができます。

また、個人間での貸し借りをしている可能性がある場合は、借用書がないかご自宅の捜索とともに、金融機関から取引履歴を取り寄せてください。返済していた形跡が記録に残っているかもしれません。

なお、被相続人が保証人になっている場合には、保証債務を受け継ぐ(保証人の地位を受け継ぐ)ことになりますので、こちらにもご注意ください。

Q14. 相続人の中に未成年者がいます。どのように遺産分割協議をすればよいのでしょうか。

A14.

未成年者は自身が遺産分割協議に参加することはできず、親権者が子を代理するのが原則なのですが例外があります。

例)被相続人︓夫 相続人︓妻、未成年の⻑女と次女

原則からすると親権者である妻は未成年の⻑女と次女の代理人となれるはずですが、これを認めてしまうと、妻は自分のいいように財産の配分を決めることができてしまいます。

このように利害が対立する関係を利益相反行為といい、利益相反行為にあたる場合、親権者は未成年者の代理人になれません。

この場合、妻は家庭裁判所に対し、未成年者の長女と次女それぞれに特別代理人の選任申立をします。

家庭裁判所は長女に対し1名、次女に対し1名それぞれ特別代理人を選任しますので、妻は長女次女の特別代理人と一緒に遺産分割協議をしていくこととなります。

Q15. 相続人の中に認知症の方がいる場合はどうなりますか?また行方不明者がいる場合は?

A15.

【認知症の方がいる場合】

判断能力の無い方がする法律行為は無効となります(認知症=判断能力がないとは必ずしもいえません)。

判断能力がない、もしくは判断能力が足りない方が相続人になる場合は、家庭裁判所に対し成年後見や保佐開始の審判を申立て、選任された成年後見人や保佐人と一緒に遺産分割協議をしてください(保佐人は遺産分割協議の代理権を得ておく必要があります)。

【行方不明の方がいる場合】

遺産分割協議は、相続人全員の合意であることが必要ですので、当然、行方不明の方も参加しなくてはなりません。しかし、実際問題としてそれは難しいため、行方不明の方の代わりとなる、不在者財産管理人を選任して、その人に遺産分割協議に参加してもらうことになります。

不在者財産管理人は、行方不明の方の住所地の家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てをして、選任してもらいます。

不在者財産管理人には財産の処分の権限がありませんので、遺産分割協議に参加するには、権限外行為許可を得る必要があります。

Q16. 遺産分割協議のやり直しはできるのですか?

A16.

一度、遺産分割協議が成立しても、相続人全員の合意のうえ解除をし、再度、遺産分割協議を行うことが認められています。

ただし、これは民法上の話であって、税務上は簡単にはいきません。再度の遺産分割協議では、譲渡や交換と判断される恐れがあります。遺産分割協議を合意解除する前に、最寄の税務署や税理士に相談してみましょう。

Q17. 遺産分割協議がまとまりません。どうしたらよいでしょうか?

A17.

遺産分割協議は、相続人間で円満にまとまるのが望ましいのですが、やはり相続人同士の思惑がからんで、平行線のまま協議がまとまらないこともあります。

ところが、まとまらないからといって、そのまま放っておくわけにもいきませんね。そういう場合は、家庭裁判所に手助けをしてもらいましょう。

まずは、家庭裁判所で遺産分割調停の申立てをします。

これは、共同相続人の一人または数人から他の共同相続人全員を相手方として、相手方の住所地の家庭裁判所に申立てます。調停は、あくまでも話し合いですので、ここでも話がまとまらない場合があります。この場合は、調停が不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。審判手続きでは、裁判官が相続財産や相続人の様々な事情、状況を考慮した上で、遺産分割の審判をします。

Q18. 遺言を遺したいのですが、種類があると聞きました。詳しく教えてください。

A18.

通常の遺言には(1)自筆証書遺言(2)公正証書遺言(3)秘密証書遺言の3種類があります。

主な遺言の種類と特徴は以下のとおりです。

(1)自筆証書遺言

遺言の全文、日付及び氏名をすべて自分で記載し、名前の下に押印して作成します。ただし平成31年1月より作成のルールが緩和し、財産目録については自筆でなく、パソコン等で作成したものでもよくなりました。

また、法務局による自筆証書遺言書保管制度についてはQ19を参照ください。

★メリット

費用がかからない。

自分だけで作れる。

遺言を作ったことを秘密にしておける。

★デメリット

形式不備により法律上無効になる可能性が公正証書遺言より高い。

遺言の存在を秘密にしていた場合、発見されない可能性がある。

家庭裁判所の検認が必要。

(2)公正証書遺言

公証役場の公証人の作成する公正証書によってなされます。

★メリット

遺言が形式不備により無効になる確率が格段に低い。

原本が公証役場に確実に保管されている。

家庭裁判所の検認が不要。

★デメリット

作成のための費用がかかる。

遺言書作成に証人が必要となる。

(3)秘密証書遺言

誰にも内容を知られずに遺言を作成したい場合に利用できるのが秘密証書遺言です。遺言書は自分で作成し、公証役場による手続きにより遺言書の存在を公証しておくものです。

★メリット

内容の機密性が確保される。

公正証書遺言を作成するよりは費用がかからない。

遺言の本文は自書でなくても署名ができれば作成可能。

★デメリット

遺言を公証役場に提出する際に証人が必要。

家庭裁判所の検認が必要。

遺言の中身は形式不備により無効になる恐れがある。

Q19. 法務局で遺言書を預かってくれると聞きました、詳しく教えてください。

A19.

令和2年7月10日より、自筆証書遺言書保管制度が開始しました。

自筆で書かれた遺言は自宅で保管する方が多く、紛失・改ざんの恐れがありましたが、遺言書を法務局に預け法務局が適正に管理・保管することで、そういった恐れを防ぐことができます。

【自筆証書遺言書保管制度のメリット】

1.紛失や改ざんを防ぐことができる。

2.法務局で保管された自筆証書遺言書は家庭裁判所での検認手続が不要。

3.他人に遺言書を見られることがない。

4.遺言者の死亡時、遺言が保管されている旨を、遺産をもらう人や、遺言

  執行者に対して通知してもらえる(保管申請時に希望した場合)。

5.証人がいらない。

本制度の利用には手数料が発生しますが、遺言書1通につき3,900円(2021年時点)と公正証書遺言に比較して安価な点も魅力です。

ただし、法務局では遺言書の書き方についての相談は受け付けていませんので、ご自分で作成するにあたっては、司法書士等の専門家に相談することをお勧め致します。

Q20. 自分で遺言書を書くとき、どんなところに気を付ければよいでしょうか?

A20.

ご自分で遺言書を作成するときは、下記の点に注意してください。

① 全文・日付・お名前をご自分で手書すること。

※なお、財産目録だけは自書しなくてもよいです。

② 押印をすること、認印でもよいです。

③ 日付は正確に記載すること(令和3年9月吉日などとしない)。

④ 加筆修正する場合はその場所を指示し、これを変更した旨を付記して署名し、かつその変更の場所に押印すること。

また、上記のような形式面での注意点とは別に、実際にその遺言を実行できるのかという内容面にも注意が必要です。

【書き方として良くない例】
「神奈川県横浜市中区〇〇町1丁目1番1号の自宅は長男に相続させる」
⇒不動産の特定方法は住所では不明確です。土地なら地番、建物なら家屋番号で特定しましょう。
また、自宅敷地以外にも私道を持っている方もいらっしゃるかと思います。私道も必ず地番で特定をして下さい。

「□□銀行△△支店普通口座1234567は、長男と二男に相続させる」
⇒割合に指定がありませんので、どういう分け方にしたいのか不明です。
長男に2分の1、二男に2分の1等の割合も書いてください。

「私の全財産を、長女に託します」
⇒「託す」「ゆだねる」「任せる」という言葉は、たとえ遺言をした方が相続により取得させるつもりで書いたのだとしても、管理を任せたいだけなのか、取得をさせたいのか、客観的にみて判別がつきません。
このような曖昧な表現は使わず、相続人に対してなら「相続させる」、相続人以外に対してなら「遺贈する」という書き方をしましょう。

Q21. 封がされた遺言書を見つけたら、すぐに開封してもよいのでしょうか。

A21.

遺言書を見つけても、ご自分では開けないようにしてください。

その遺言書を開封するためには、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に提出して、検認の申立てをし、相続人などの立会いの下、開封する必要があります。

「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です(最高裁HP「遺言書の検認」より)。

なお、これらの手続きは、遺言書が公正証書遺言の場合と法務局の自筆証書遺言保管制度で保管されている場合には、不要となります。

Q22. 遺言で父の遺産をすべて相続したのですが、弟から遺留分があるから遺産を分けるように言われています。遺留分とは何のことなのでしょうか。

A22.

特定の人に遺言で遺産を遺したときに出てくる問題が、遺留分侵害額請求権(以下、省略して「遺留分」)です。

遺留分とは兄弟姉妹以外の相続人について、それらの人の生活保障を図る等の観点から最低限の取り分を確保する制度です。

遺留分を請求し受取る権利をもつ相続人のことを遺留分権利者といいます。

遺留分権利者の遺留分侵害額の計算方法は下記のようになります。

【遺留分】= 遺留分を算定するための財産の価額 ×1/2(※)× 遺留分権利者の法定相続分
(※)直系尊属のみが相続人である場合には、1/3
【遺留分を算定するための財産の価額】=(A)+(B)-(C)
(A) 被相続人が相続開始の時において有した財産の価額
(B) 贈与した財産の価額
※1 算定にいれる贈与については、下記のとおり
※2 負担付贈与の場合は、負担の価額は控除して算定する
(C) 債務の全額
※1算定にいれる贈与(以下①~④)
①相続人に対してされた、相続開始前10年間の贈与 (ただし、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)
②相続人以外に対してされた、相続開始前1年間の贈与
③被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたのに行った贈与
④被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたのに行った不相当な対価をもってした有償行為(ただし、不相当な対価額は控除)
【遺留分侵害額】=(A)-(B)-(C)+(D)
(A) 遺留分
(B) 遺留分権利者の特別受益の額
(C) 遺留分権利者が相続によって得た積極財産の額
(D) 遺留分権利者が相続によって負担する債務の額

遺留分侵害額請求権については平成30年の民法改正(令和元年7月より施行)で見直しがされた部分です。改正前は、遺留分減殺請求権といって、この権利を行使すると当然に減殺の効果が生じ、その結果として遺産の目的物について共有関係が生じてしまっていました。これでは事業承継の支障になるということで、今回の改正により遺留分権利者は、遺贈や贈与を受けた者に対し遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるという取扱いになりました。

Q23. 父が死亡しましたが、遺産は父と母が一緒に生活していた実家くらいしかありません。子供は私一人のみです。
母はそのまま実家で生活をしますが、いずれは母にも相続が発生するのですから、実家の名義は私にしたいです。どういった方法を取れば良いでしょうか?

A23.

平成30年の民法改正(令和2年4月より施行)で配偶者居住権という制度が新設されました。

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、被相続人が所有していた建物に、配偶者が亡くなるまで又は一定の期間、無償で居住することができる権利です。詳細は下記の表をご確認ください。

配偶者居住権
成立要件 ①配偶者が被相続人の所有していた建物に相続開始の時に居住していた
②遺産分割協議、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得した
※なお、配偶者には内縁関係は含みません。
対抗要件 登記
存続期間 配偶者が生存している間
又は
遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判で定められた期間
消滅事由

以下の場合に、配偶者居住権は消滅します。

・存続期間が満了したとき

・用法遵守義務、善管注意義務の違反、第三者への無断貸与等によって居住建物の所有者から消滅請求をされたとき

・配偶者が死亡したとき

・居住建物の全部が滅失等して使用できなくなったとき

・居住建物の所有者との合意したとき

・配偶者が放棄したとき

上記表記載のとおり配偶者居住権は要件を満たしていれば成立しますが、第三者に対抗するためには登記をしなければなりません。

配偶者居住権の登記申請は法務局に申請方法確認しながらご自身で申請をしてもよろしいとは思いますが、申請には不動産登記法の知識が必要となりますので、お近くの司法書士に依頼することをお勧め致します。

Q24. 夫が死亡しました。相続人は私と夫の兄弟姉妹です。遺産は自宅含め別荘や預貯金、株式等多数あり、相続人の間での話し合いは長引きそうです。私は話し合いが整うまで、自宅で生活を続けてもよいのでしょうか。

A24.

遺産分割の協議がまとまるまで、建物に住み続けることができます。平成30年の民法改正で、配偶者居住権と共に、配偶者短期居住権という制度が新設されました。詳細は下記の表をご確認ください。

配偶者短期居住権
成立要件 以下の要件を満たす必要があります。 なお、配偶者には内縁関係は含みません。
①配偶者が被相続人の所有していた建物に相続開始の時に無償で居住していた
②配偶者が相続開始時に配偶者居住権を取得していない
③配偶者が欠格事由又は廃除により相続権を失っていない(ただし、相続放棄は除く)
対抗要件 対抗要件制度はなし
存続期間 ①(A)又は(B)どちらか遅い日
(A)配偶者が居住建物の遺産分割に参加するときは、居住建物を相続する人が確定する日までの間
(B)相続開始から6か月を経過した日
② ①以外の場合(例えば配偶者が相続放棄したり、遺言で配偶者以外の人に居住建物を遺贈している等)建物を取得した人から配偶者短期居住権の消滅の申し入れをされた時から6か月を経過した日
消滅事由 以下の場合に、配偶者短期居住権は消滅します。
・存続期間が満了したとき
・用法遵守義務、善管注意義務の違反、第三者への無断貸与等によって居住建物の所有者から消滅請求をされたとき
・配偶者が配偶者居住権を取得したとき
・配偶者が死亡したとき
・居住建物の全部が滅失等して使用できなくなったとき

Q25. 相続放棄について教えてください。私が幼い頃に両親が離婚して以来、父とは親交がありませんでした。父は借金をしていたらしく、1年前に父が亡くなっていたという事実が貸金業者からの手紙で分かったのですが、今から相続放棄はできるものでしょうか。

A25.

相続放棄の申述は、相続人が相続開始の原因となる事実(被相続人の死亡)及び自己が相続人となった事実を知ったときから3か月以内に行わなければなりません。これを熟慮期間といいます。

貸金業者等の債権者からの通知によって相続人となった事実を知った場合は、その通知を受け取った日が自己が相続人となった事実を知ったときと考えられますので、速やかに相続放棄の申述を行ってください。

Q26. 母が死亡し、葬儀費用や墓石購入費用のために母の預貯金を解約して支払いに充ててしまいました。その後、母に借金があったことが判明したのですが、相続放棄はできるのでしょうか。

A26.

相続人は、単純承認をしたときは、被相続人の権利義務を承継することとなり相続放棄ができません。単純承認にあたるのは次のような場合です。

①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

②相続人が熟慮期間内に限定承認、または相続放棄をしなかったとき。

③相続人が限定承認または相続放棄をした後、相続財産の全部もしくは一部を隠したり、自分のために消費したり、悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

それでは被相続人の預貯金等を葬儀費用や墓石購入に充てた場合、相続財産の処分となるのか、これについて平成14年大阪高裁では葬儀費用の支出は社会的儀式として必要性が高く、必ず相当額の支出を伴うものであるから、相続財産を被相続人の葬儀費用に充当しても、社会的見地から不当とはいえない等として、相続財産の処分には当たらないとしています。

また墓石については、仏壇や墓石を購入して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、相続人が相続財産を利用することも自然な行動であり、社会的にみて不相当に高額な金額でなければ、相続財産の処分になるとは断定できない、としています。仏壇や墓石についてどの社会的にみて不相当に高額になるのかは明確ではありませんし、この判例ではその他の事情も考慮された上で、相続財産の処分には当たらないとされています。よって、実際に相続放棄が認められるか否かは個別の事情になるでしょう。

Q27. 兄が亡くなり、私が相続人となりました。兄は工場の経営者で、遺産には自社株式、工場(土地建物)ほか事業借入もあり、遺産総額の調査に時間がかかってしまいます。相続放棄するかどうかは調査結果次第なのですが、熟慮期間内を過ぎてしまうかもしれません、何か方法はありますか?

A27.

相続人は、相続人が相続開始の原因となる事実(被相続人の死亡)及び自己が相続人となった事実を知ったときから3か月(熟慮期間)内に、相続を放棄するか承認するかの選択をすることができます。

ただし、相続財産の構成が複雑である、遺産が地方や海外等に分散している、相続人が遠隔地や海外に居住している等、特別な事情がある場合には、家庭裁判所に熟慮期間伸長の申立てをすることができます。

Q28. 亡母が借金をしていたので相続放棄をしたのですが、手続きを依頼した司法書士に、相続放棄が裁判所に受理されても、後日、貸金業者が相続放棄の効力について争ってくる可能性はあると言われました。相続放棄の効力は絶対的に生じるものではないのですか?

A28.

相続放棄の申述受理とは、相続人の相続放棄をする意思表示を、家庭裁判所が公証するものであり、相続放棄が法的に要件を満たした適切なものであると確定したわけではありません。そのため、貸金業者等の債権者が相続放棄に不服がある場合、その有効性を争ってくる可能性があるのです。

Q29. 2か月前に父が死亡しました。私は、父の遺産は長男である兄がすべて継ぐものだと思っていたので相続放棄をしたのですが、妹が兄に遺産の分割を請求していると聞いて相続放棄したことを後悔しています。今から相続放棄を取り消したいです。

A29.

民法は、「相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも、撤回することができない。」として、一度行った相続の放棄及び承認の撤回を禁止しています。

ただし相続放棄の申述については、家庭裁判所の受理という手続きが存在します。家庭裁判所は相続放棄申述書が提出されてから放棄の意思確認等を行いますので、受理までにある程度の日数を要しています。家庭裁判所の実務では、相続放棄の申述は受理によって効力を生じるものとしており、受理前の申立ての撤回を認めています。

よって、相続放棄を取り消し(撤回)できるか否かは、相続放棄が受理されているのかによります。

Q30. 私の父は健在なのですが、消費者金融など複数から多額の借金をしているようです。私は父とは一切関わりあいたくないし、今後、父が死亡したとしても相続などしたくはありません。父の生前に相続放棄をすることは可能でしょうか。

A30.

相続放棄は、相続人となった人が、熟慮期間内(Q25参照)に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出し、受理されなければなりません。よって、死亡前には相続放棄はできません。